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水唱餞歌



幸福定義



 あたたかな かぜのふく あおぞらのした


    ふたつの ひつぎを くろいかわが はこぶ ――――




あの日から 歌を唄わなくなった

一種の戒めと決めてみた

だから 今日も うたわない


歌を無くした鳥は 存在を失う から と

更に更に強くなった 消滅願望を押し込めて






まるで葬列のようだ

最後尾を歩くバックアップの人たちは皆一様に複雑な顔をしていた
前の人たちは…どうだろう
朝から背中しか見ていないから分からない

黄昏色の髪をした人が 空ろな眸で気だるそうに歩いていた
赤尽くめの格好をした少女が 不機嫌そうな顔をしたあとにすぐに笑顔をつくって前の列に駆けていった


俺は列のなかにお嬢さんを見つけると
相手も気がついてくれて 互いに微妙な笑顔を向けた
自然と隣について 手を繋いだ

誰かに触れていないと爆発してしまいそうだった
誰かに触れることでとても落ち着く気持ちを覚えた
(それは勿論、誰でも良いわけではなくて、心を許した大切な人じゃないととは思うのだけど)
だけどそれだけで 余計に悲しくなった


如何して

いつだったか前にこう思ったことを思い出した

何も知らずに殺すよりは 理解してから殺したい と

だけど今回は その理解する時間も方法さえも無い
無くて ただ殺すために往く

理由を 信念を 心を 聞いたところで無駄という人もいるかもしれない
だけど俺は せめて彼らの心を最期まで覚えていたい
誰にも理解されることなく 誰にも覚えられることなく 滅んで逝く彼らを
ごめんなさい
既に俺は彼らに情が移ってしまっている
この先も似たような人がゴーストが現れたとして それでも俺は全ての心を覚えていたい
ひとつの依頼 ひとつのゴーストタウン ひとつの小さなゴーストまで
例え自分の心が壊れても それでも


後悔はしていない
後悔してないだなんて嘘だ

最初から心に決めていたこと
ならば何故あんなに迷う必要があったの

前を歩く人たちの背中に怨みと悲しみの視線を向けた
そこには知った背中がたくさん たくさんあった
それでも銀色が影に一際煌いた

だけど 涙が出そうになって

お嬢さんの手を 強く握った



これから死に逝く土蜘蛛の代わりに死ねたら良いのに

これから傷つく能力者たちの代わりに傷つけたら良いのに





お嬢さんは何も言わない

俺も 何も 言わない


ただ 乾いた足音が響く
ぎしぎしと何かが悲鳴をあげていて煩かった
by kaze-kara | 2007-04-07 00:13 | 透明色の混沌
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  PBW「シルバーレイン」     雀宮棘の日常と思考。

by kaze-kara