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水唱餞歌



空、雲、街

空港って飛行機が出入りするところで、
飛行機って空を飛ぶ乗り物で、
っていうことは空を飛ぶ電車みたいなものだと考えて、
なら空港は駅みたいなものかなあと思っていたけれど、
やっぱり世界は、予想のなかに納まらないみたいだ。





けど飛行機は、電車とちょっと似てるなと思った。
どこがと言われたら困るんだけど、なんとなく。
空に飛び立つ瞬間は、わくわくしすぎて思わず小さく笑ってしまった。
雲の上の晴れ渡った青空に、目下に広がる雲海はとても壮観で。
なんだか夢でも見てるみたいだ。
長いこと慣れない椅子に座るのは疲れたけれど。(ベルト着用サインが消えてる間は、靴を脱いで体育座りとか正座をしていた)

着いた途端、空気の匂いに驚いた。
肌ざわりも何だか違う。
人も、言葉だということが信じられない言葉を話しているし(色の違いは、色んな色の人がいる学校よりも同じような色の人が多いと思った)、
外国っていうよりも、異世界みたいだ…。
日本でさえ地域によって同じ国だと信じがたいくらい違いがあるのに、地球って大きいなあと深く感動した。



携帯を見ていたひかるがもう迎えが来ているというので、手を引かれて案内されていく。
その間も、英語ばかりの看板とかが珍しくて、きょろきょろ辺りを見回す。

そういえば、ひかるも荷物はカードに仕舞ってきたみたいだ。
小さな鞄は持っているけど、イグニッションカードって便利だよねえと笑いあった。

暫らく進めば、大きな(というか長い?)車の前に立つ、深お兄さんに似た男の人の姿。
「あれがお兄さんかな?」聞こうとして、けど一瞬足を止めたひかるにつられて言葉は出なかった。
そのまま「ちょっと待ってて」と言われ、ひかるは男の人に駆け寄っていく。
やっぱりあの人がお兄さんで良いみたいだ。
…そういえばお土産、カードに入れてきたからここじゃ出せないな、どうしよう。
それとも家に着いてから上げた方が…なにかしら寿子はん(太郎はんのお母様だ)に礼儀を教わったけど、ちょっと思い出せない。

悩んでいると、聞き慣れた、けど初めて聞く音に意識を引っ張られて顔を上げる。
ひかるとお兄さんが話している。
凄く楽しそうだけど、何を言っているのかさっぱり分からない。
英語でもないみたいだ。
まるでひかると俺の間に、スクリーンの壁があるみたいな錯覚に捉われる。
ひかるの嬉しそうな顔が声が嬉しいのに、なんだか遠いかんじ。
よくわからないけど、勉強してこなかったから自業自得のことだろうし、会話が終わるのを待つしかできない。
すごく綺麗な映画を見ている気分だった。

だから急に日本語が聞こえてびっくりした。
異国語を喋っていた時よりも幾分低い声。
ひかるからの紹介を受けて、俺も日本語で挨拶する。

口が悪いから気にしないでねと言われてたから、太郎さんみたいなかんじかなと想像してたんだけど、少しだけ違うかんじだった。
確かに、けだるい雰囲気とかは似てる。
けど、正直、太郎さんの方が口は悪い。ものすごく。
俺が『お客』ということもあるのかも知れないけど、尋ねてきてくれたお客さまにさえ太郎さんは…。
だから、思ってたより、すごく、すごく優しくて、嬉しくなって自然と笑みが零れた。

車は靴を脱がなくて良いらしい。
飛行機は流れるように列になった人が入って行ったから、言われなくても靴のままで良いのは分かったけど、
なんだか車の中にふわふわした絨毯が敷かれていたから、危うく靴を脱ぐところだった。
それだけじゃなく、ひかるの家も靴のまま入って良いらしい。
いや、ひかるの家だけじゃなくて、この国の常識というやつなんだろうか。
靴を脱いでいても掃除が大変なのに、靴のままだともっと掃除が大変なんだろうな。

ふと窓の外を見て、一瞬我が目を疑った。
絵画そのままの町並みが、本当に目の前に流れている。
とても、綺麗。
日本の町並みも綺麗だと思うけれど、煉瓦作りだとか、白い壁だとか、家のひとつひとつ、それから庭の手入れが行き届いていて、すごく洗練されている綺麗さで。
画もそうだけど、テーマパークにでも来た気分。
それを見ているだけでも飽きないんだけど、動きの早い景色ばかり見ていたからか少し気持ち悪くなった。
ひかるとお兄さん(時々だったけど)と話しているうちに何ともなくなっていったけど。


車に乗っていた時間は、飛行機に乗っていた時間が長かったせいか随分短く思えた。
綺麗な装飾をされたような、大きな家を見上げる。
ここがひかるの実家。

大きいと聞いてはいたけど、学校がああだからいまいち大きいの基準が分からない。
小さいはまだ分かるんだけど。
けどなんとなく、太郎さんの家を二階建にしたようなかんじだなと思った。
迷子の人が尋ねてきても大丈夫なかんじ。

扉を開ければ、綺麗な女の人が迎えてくれた。
お母様、と呼ぶ声を耳に、挨拶をする。
どうやらひかるの家族は日本語が分かるみたいで、もし通じてなかったらどうしようなんて挨拶した後に思って焦ってたから、よかった。

案内されたのは意外なことに和室の部屋。
うちと違って、茶室みたいに整って少し閉鎖的なかんじだったけど、壁に囲まれているのや入り口が小さいことでそう思えただけで、実質は結構広い部屋だ。(そもそもうちは、襖を開ければ全部の部屋が繋がるような構造だから根本が違う気がする)
こんな洋館に和室があることにびっくりだけど、その心遣いに感謝する。
お陰でその日は、よく眠れた。
…食事の時は、さすがに緊張したけれど、寿子さんの礼儀講座が役に立ちました、ありがとう…。


明日の夕方には現地に行って、俺は先に森へ行こうと思う。
by kaze-kara | 2008-06-22 09:23 | 黒ニ鳴ル噺
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