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水唱餞歌



花星


 きい、

木の床が軋む音。
かしてもらっているこの廃寺は、もう大分古いので床も壁も痛んでいる。
隙間風も入ってくるけれど、何故だか雨漏りだけはしない。






今聞こえたものは小さな軋み。
人間の重みが出す音ではない。

縁側の床に寝転がっていた体を少し起こして振り返る。

「はなこ…?」

視線の先には、白昼夢のようにぼんやりとした、けれどとても綺麗な白い狐。

いつだったか太郎さんが北海道から連れ帰ってきた子だ。
それ以来、太郎さんの傍に空気のようにいつもいる。

「どうした…?東京に行かなかったのか?」

太郎さんは今、東京の大学に進学して上京している。
だから彼女…花子も東京までついていったはず、なのに。

とことこと小さな足で近づいてくる様子は可愛らしい。
彼女の小さな背に合わせるようにまた寝転がると、ぽとりと目の前に赤いものが落とされた。
なにかをくわえてきたらしい。

視界を更に下に向ければ、それは木イチゴだった。

「ああ、」

それを見て、彼女がここにいる理由がわかった。

「ありがとう」

まだ包帯の取れない腕で彼女の頭を撫でる。
うまく動かなかったのでただ手を乗せるだけになってしまったが、それでも嬉しそうに瞳を細めてくれた。

「…今週は此処にいると良い。太郎さんも週末には戻るから」

いえは花子は小さく鳴いて、尻尾を振った。ぱたり。
by kaze-kara | 2008-06-25 11:11 | 黒ニ鳴ル噺
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  PBW「シルバーレイン」     雀宮棘の日常と思考。

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