きい、
木の床が軋む音。
かしてもらっているこの廃寺は、もう大分古いので床も壁も痛んでいる。
隙間風も入ってくるけれど、何故だか雨漏りだけはしない。
今聞こえたものは小さな軋み。
人間の重みが出す音ではない。
縁側の床に寝転がっていた体を少し起こして振り返る。
「はなこ…?」
視線の先には、白昼夢のようにぼんやりとした、けれどとても綺麗な白い狐。
いつだったか太郎さんが北海道から連れ帰ってきた子だ。
それ以来、太郎さんの傍に空気のようにいつもいる。
「どうした…?東京に行かなかったのか?」
太郎さんは今、東京の大学に進学して上京している。
だから彼女…花子も東京までついていったはず、なのに。
とことこと小さな足で近づいてくる様子は可愛らしい。
彼女の小さな背に合わせるようにまた寝転がると、ぽとりと目の前に赤いものが落とされた。
なにかをくわえてきたらしい。
視界を更に下に向ければ、それは木イチゴだった。
「ああ、」
それを見て、彼女がここにいる理由がわかった。
「ありがとう」
まだ包帯の取れない腕で彼女の頭を撫でる。
うまく動かなかったのでただ手を乗せるだけになってしまったが、それでも嬉しそうに瞳を細めてくれた。
「…今週は此処にいると良い。太郎さんも週末には戻るから」
いえは花子は小さく鳴いて、尻尾を振った。ぱたり。